A:知恵なき賢木 ネチュキホ
ネチュキホ……この奇妙な名前は、ペルペル語で「賢い木」って意味らしい。だが、本当に賢いとは思えねえ。なにせ人と見るや、杖みてえな枝でボコボコ殴ってきやがって、現地の牧童や行商人なんかにゃ、死者だって出てるんだからな。しかも不死なのか、狩ってもまたどこかで現れるんだ。
樹に憑いた悪霊だとか、根を介して別の木に記憶を移してるとか、いろんな説があるが、俺らとしちゃ狩るだけだわな。
~ギルドシップの手配書より
https://gyazo.com/7d4d8e25cfd2a45037e5bb876b664f7a
ショートショートエオルゼア冒険譚
「ねぇ、知ってる?イボってさ、親株のイボが残ってるといつまでも出てくるのよね…」
唐突なあたしの話に相方とギルドシップの男は打合せの話を途中で止めて丸くした目であたしを見ながら固まった。あからさまに「突然何を言い出したんだ、この人」という顔である。
「…イボ、あったっけ?」
相方が恐る恐る聞いて来た。
「違うわよっ。あたしの話しじゃなくて」
ジトっとした目で相方を見ながらあたしは答えた。
「ネチュネチュの話しよ」
すかさずギルドシップの男が突っ込んでくる。
「ネチュキホな。」
律儀な男だ。
ネチュキホとはペルペル語らしいのだが、訳すと「賢い木」という意味になるらしい。その「賢い木」と呼ばれるそいつは移動植物科の人型の化け物で、大きさは5m強あり、頭から肩にかけて黄色く紅葉した葉が頭巾のように茂っている。腕には人の胴体程の太さがある杖の様なものを持ち高地オルコ・パチャの街道沿いをウロウロ彷徨っている。それだけなら困らないが、こいつは植物のくせに何故かアグレッシブに行動する。街道を通る行商や旅人を見かけようものなら相当な距離があってもドスドス地面を踏み鳴らして走ってきて、そのぶっとい杖で殴りかかってくるのだ。とても賢い子の行動とは思えないが、顔からたれた蔦っ葉が髭のようにみえるからペルペル族にはこいつが賢く見えたのかもしれない。
こんな説明だとコミカルに聞こえるかもしれないが実際に何人も死人が出ているから笑えない話だ。
仕事を探していたあたし達が困ったギルドシップからの依頼を受けてネチュネチュを最初に退治したのが5日前のことだ。なのにその翌日にはすぐにまたネチュネチュは街道沿いに姿を現した。その後も「倒してもすぐに復活する」を繰り返し、ちょっと困ってその対策について話をしていたところだった。
「つまり、倒したネチュキホは子株で、どこかに親株になるネチュキホが存在してるって事か。」
男は顎の無精ひげを撫でながら言った。
あたしは男の顔を見ながらウンウンと頷いた。
「親株がいるとして、その居場所の見当はつくん?」
相方があたしの方を見て言った。
「う~ん、そうねぇ、想像してみるしかないんだけど。あたしがネチュウッホだったとしたら…」
「ネチュキホな」
律儀というより、いちいち細かい男だ。
「親株がやられたらもう復活は出来ないんだから、よっぽど安全なとこに隠れるよね…」
あたしがそう言うとギルドシップの男はしつこく顎の髭を撫でながら天井を見上げた。
「安全な場所か…。そういえばヨカフイ族が護ってる遺跡の近くに溶岩が見える火口があったろ?昔噴火があった時に地中に埋まっちまった遺跡があの周辺に幾つかあってな。埋まっちまったあとは護る必要もないって言うんで、それ以来人っ子一人近づかねぇ。隠れるにはもってこいだし、安全っちゃ安全だが…。ヨカフイ族もいちいち掘り起こしたりしてないから地面の下だぞ?」
相方が溜息をついた。
「地面の下に埋もれてるんじゃ、隠れてても出てこられないもんねぇ」
あたしはギルドシップの男に聞いた。
「その遺跡が埋まったあたりで、ここ数年でがけ崩れやなんかがあった場所はない?」
男は顎から手を放してあたしの方を見ると、一瞬遠い目をしてから言った。
「…なるほど、いくつかあるな。片っ端からいってみるか」
そう言うと男は立ち上がり、出口の扉の方に歩き出した。あたし達は男の後を追った。